投稿

婚姻意思の不存在(最判S44/10/31 , 民集23-10-1894 , 百3-1 , S判5-1)

 婚姻意思の不存在(最判 S44/10/31 , 民集 23-10-1894 , 百 3-1 , S 判 5-1 ) ・ C742-x-1 の「当事者間に婚姻をする意思がないとき」の意義 X は B と結婚するつもりで、その準備もしている。しかし、以前付き合っており、(血縁上) XY の子を生んでいる Y が「せめて生まれた子に嫡出子の地位を与えて欲しい」と依頼したため、 Y と婚姻の届出をしてすぐに離婚をすることを約し、婚姻届を提出した。 婚姻届提出後も、 X は B との婚姻生活を営んでおり、 Y と手紙のやり取り以上の関係を持つことはなかった。 X は Y との婚姻届は「婚姻をする意思」を持たずにしたものであるから無効であるとして確認訴訟を提起( Y は有効主張の上予備的反訴として婚姻破棄に基づく慰藉料として 300 万円を請求)。   ~審級関係 第1審:届出の際に X が Y と「夫婦生活をする意思」を持たない以上、届出があっても「婚姻意思がある」とはいえず、無効。 控訴審:第1審支持、婚約破棄の慰藉料について 150 万円の限度で認容。 Y 婚姻の有効性を主張し上告。   ~判決理由・解説 「当事者間に婚姻をする意思がないとき (c742-x-1) 」とは、当事者間に新に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指す……たとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合致が有り、ひいて当事者間に、一応、所論法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認めうる場合であっても、それが、単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないものであって、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には、婚姻はその効力を生じない……」   ~学説対立等 婚姻の成立には届出(有効要件という説もあるが、成立要件とするのが一般的)が必要で、更に合意、婚姻意思がなければ無効である (742-x-1 明文 ) 。 婚姻意思には大きく3つの学説があり、①形式意思説は単に婚姻届を出す意思を婚姻意思と呼ぶ。対して、②法的効果説では婚姻から生じる法的効果の 1 つでも欲する意思があれば足りるとし、本件のように子を嫡出子とする効果のみを望んでも可である。亜種として②

知識ベースシステム事件(知財高裁H26-09-24 / 判例集未登載 / 百選54)

 知識ベースシステム事件(知財高裁H26-09-24 / 判例集未登載 / 特許判例百選54番) 概要 原告Xは「知識ベースシステム,論理演算方法,プログラム,及び記録媒体」という発明について特許出願したが,拒絶査定を受けた。それに対し,拒絶査定不服審判請求と手続補正を行う。これについて,自然法則利用性がないとして補正却下,同様に発明該当性を否定して請求不成立の審決を行った。それを受けて,審決取消を求める訴えを提起した。 結果 請求棄却(原告敗訴) 理由 特許法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,発明は,一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成しうるという効果の確認という段階を経て完成されるものである。 そうすると,請求項に記載された特許を受けようとする発明が, 特許法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは,前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその厚生から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。 そして, 上記の通り「発明」が「自然法則を利用した」技術的思想の創作であることからすれば, 単なる抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体は, 自然界の現象や秩序について成立している科学的法則とはいえず,また, 科学的法則を何ら利用するものではないから,「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当しない ことは明らかである。 <一般的な自然法則利用性の判断。そもそも本願発明が人為的取決めに過ぎないので否定,につながる> また, 現代社会においては,コンピュータやこれに関連する記録媒体等が広く普及しているが,仮に,これらの抽象的な概念や人為的取決めについて, 単に一般的なコンピュータ等の機能を利用してデータを記録し,表示するなどの内容を付加するだけにすぎない場合も,「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないというべきである。<ソフトウェア関連発明プロパーの議論。この部分が補足①~④の基準に該当しないことにつながる> <なお,これはそもそも課題の提示が曖昧すぎてそれ自体でダメ,と切ることもできる事案で,自然法則利用性でも別途切る

省エネ行動シート事件(知財高裁H28-02-24 / 判タ1437号130頁 / 百選49)

 省エネ行動シート事件(知財高裁H28-02-24 / 判タ1437号130頁 / 特許判例百選第5版49番) 事案 原告Xは「省エネ行動シート」について特許を出願したが,拒絶査定を受けた。それに対し,不服審判請求,及び手続補正書により特許請求の範囲を補正。この審判請求について審判請求不成立の審決(本件審決)を受け,それに対する審決取消訴訟を起こした事案である。 争点 特許法上の発明該当性(拒絶査定及び本件審決における理由付記不備を中心とする手続違背も実際には問題になったがまた別項目にて) 結果 原告の請求棄却 理由 (<>内は筆者注) 特許法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは, (前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として考察した結果,) 自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するといえるか否か (によって判断すべきものである。) → 「発明」は自然法則を利用した技術的思想の創作である ところ,単なる人の精神活動,意思決定,抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体は,自然法則とはいえず,また,自然法則を利用するものでもないから,直ちには自然法則を利用したものということはできない。 <から,課題解決のために人の精神活動,意思決定,抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体を用いるものは「自然法則」を利用したものとはいえず,「発明」とはいえない> →(以上規範) 本願発明の技術的意義は「省エネ行動シート」という媒体に表示された,文字として認識される……を利用者である人に提示することによって,当該人が,取るべき省エネ行動と節約できる概略電力量等を把握するという,専ら人の精神活動そのものに向けられたものであるということができる。 本願発明は,その本質が専ら人の精神活動そのものに向けられているものであり,自然法則,あるいは,これを利用するものとはいえないから,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しないというべきである。 → 本願発明は,特許法2条1項に規定する「発明」には該当しない。 補足 特許法2条1項の「発明」の定義は「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」となっている。 ここから,①自然法則利用性,②技術的思想性,③創作性

平成26年新司刑法(刑事系第一問) 答案例

下記の答案は実際に時間をはかり(タイピングであることと精神的余裕を考慮して1時間30分) ,作成したものです。よって,不足等があることをご承知おきください。タイプミス等があっても,それはそのまま貼り付けてありますのでその点ご指摘はご勘弁ください。司法試験1年前の院生の答案だと思って参考にしたり,笑ったりすればいいと思うよ。 本問での反省点 甲の罪責について中止犯の可能性は検討すべきだったと思います。また,不真正不作為犯の論証が頭の中で定まっていなかったので冗長です。ギリギリセーフかもしれませんが,24時間,72時間などという時間で示されていたものを7月1日基準で7月3日の段階で……などと書き換えてしまっている(時間の関係で)ので,これがどう評価されるかが怖いです(マイナスにはならないまでも,印象点で1点2点失っているかも?) また,丙の故意認定が雑な気がします。かといってこれ以上キレイに書く能力はまだないのですが。最後に,未成年者略取誘拐罪とかいうあまり使わない条文にはその場で対処したので,もっといい書き方はあると思います。とはいえ,現場ではこれくらいで充分と思っていますが。 答案本体 1.        甲の罪責 (1)   甲は A に授乳をせず放置し,その後 A は死亡したことから,刑法 199 条 ( 以下,刑法は法令名省略 ) 殺人罪にあたらないか。 ところで, A は積極的に A を傷害等して殺害せしめたものではなく,ただ単に放置したに過ぎず,不作為による殺人罪の成立の余地しかないところ,不真正不作為犯たる不作為殺人を処罰できるかが問題となる。 殺人罪は作為によることを必ずしも要求する形では規定されていないところ,不作為によってもすることができるから,罪刑法定主義には反しない。一方で,不作為による結果の実現があった時,広く認めるとその処罰範囲が広すぎるため,一定の制約をする必要がある。 まず,不作為とは,ある要件に対して期待される行為をしないこと,と定義されるところ,その期待される行為をすれば結果が回避できた可能性があることが必要となる(①結果回避可能性)。また,結果回避可能性のある作為をすることができるということだけで作為義務を認めて不作為犯の成立を認めるとなお広範に失する。よって,保障人的地位を認めうるような場合にのみ,作為義務の発生

宮入バルブ事件<体裁整理前>

 東京地決平成16年6月1日(判例集Ⅰ-56) 「特に有利な価格」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額を言うところ、時価がある場合、既存株主の利益保護の観点からその時価と等しいことが要請されるが、資本調達の目的を達するためには、発行価額を時価より引き下げることが必要となる。 よって、公正な発行価額は①『発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合』して決すべきである。 ところで、 ②日本証券業協会自主ルール <第三者割当増資等の取扱いに関する指針>「発行価格は、当該増資にかかる取締役会決議の直前日の価格(直前日に売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日)に0.9を乗じた額以上の価格であること。ただし、直近日または直前日までの価格または売買の状況などを勘案し、当該決議の日から発行価格を決定するまでに適当な期間(最長6ヶ月)をさかのぼった日から当該決議の日までの間の平均の価格に0.9を乗じた額以上の価格とする事ができる。」 ……は、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益と調和の観点から定められた、一応合理的な基準であるので、これと著しく乖離した金額で、かつこの乖離の理由が客観的な資料に基づいて考慮要素を斟酌した結果であると認められ無いときは、合理的な価格といえない<=有利発行、不公正発行にあたる> ②が一応合理的であるから、これに従っていれば原則問題なし、但し①によって考慮した結果合理的であると言えれば、②から離れてもよいという判断。あくまで原則は①、そこから導かれる基準として②があるという関係であることは忘れない。 本裁判例では公正価格との差額を会社にとって生じた損害と認定して、株主代表訴訟による損害賠償請求を認めた。有利発行の際の212-1-1責任(これは株総特別決議によって責任を回避、また、通謀、199-3虚偽説明、831-1-3参照)、取締役423責任(847株主代表訴訟)の対象となるかについて、認めた。 →特に有利な発行価額による新株発行が違法になされた場合に既存株主に生じる損害は、その発行価額と本来会社に払い込まれるべき適正な発行価額との差額 であるとしてその差

ニレコ事件(ポイズン・ピルの適法性)

  東京高決平成 17 年 6 月 15 日(商判Ⅰ― 66 事件) 用語: ポイズン・ピル……事前に既存株主へ新株予約権を無償割当しておき、発行済議決権付き株式総数の一定以上 ( 本件では 20%) を保有する者が現れたとき、取締役会が新株予約権の消却が必要と認めない限り、新株予約権が行使され、敵対的買収者の保有割合を希釈し、現経営、及び現支配株主の支配権を維持することで、経営権簒奪から防衛することを目的として設計される企業防衛策 規範: 濫用的な買収から企業を防衛するために新株予約権を行使させ、特定株主の持株比率を低下させることは、その時点での経営者や支配権を維持することになるから、ポイズン・ピルの目的の重要なものとして支配権の維持があることは否定できない。 ところで、ポイズン・ピルが発動し、実際に新株予約権が行使されたとき、既存株主は新株予約権の行使価格がほぼ無償であることから、会社資産の増加がないのに発行済株式総数が一気に 3 倍<本件では 1 株あたり 2 株の割当がされていたので、 3 倍になる>になるのであるから、株式の時価が 1/3 に下落する可能性がある。とはいえ、株主としても価値は 1/3 となれども、 3 倍の量の株式を得るのであるから、実質的に損害はないといえる。しかし、そのような要素を抱えた株式として存在する以上、投資対象としての価値が薄れ、長期に渡る株価下落、低迷を招く可能性がある。これは、本件新株予約権の発行がなければ生じ得なかった不測の損害といえる。 備考: 濫用的買収から保護するために新株予約権を活用する可能性を認めたといえるニッポン放送事件同様、こちらもその可能性は認めている。一方で、それを見越して事前に仕込むポイズン・ピルは否定したものである。

ピコイ事件

  東京高決平成 20 年 5 月 12 日判タ 1282 号 273 頁 事案の概要: 取締役会が違法な新株予約権無償割当を行おうとして、取締役会において決定した日を割当日として 247 条類推の差止請求を不可能にした。その状況で、新株予約権に基づいてなされる新株発行を差し止めることができるかという事案。新株予約権発行無効の判断をしないでいいのかという問題。 規範: 新株予約権発行はその行使による新株発行が当然予定される手続きであるから、新株予約権の発行について法令定款違反、不公正発行という瑕疵がある場合は、それに続く新株発行の手続きも当然その瑕疵を引き継いだものになる。 したがって、新株予約権発行手続に 247 条の差止事由がある場合、引き続いて行われる新株発行手続にも当然 210 条の差止事由があるものといえる。 本件: 被保全権利について、ブルドックソース事件とほぼ同じ。 株主平等の原則 (109 条 ) が原則であるが、会社の存立は株主共同の利益。それを害するような買収の場合に当該敵対的買収者を差別的に取り扱ったとしても、衡平の理念と相当性に照らして欠くところがなければ、直ちに株主平等の原則の趣旨に反するとはいえない。