知識ベースシステム事件(知財高裁H26-09-24 / 判例集未登載 / 百選54)
知識ベースシステム事件(知財高裁H26-09-24 / 判例集未登載 / 特許判例百選54番)
概要
原告Xは「知識ベースシステム,論理演算方法,プログラム,及び記録媒体」という発明について特許出願したが,拒絶査定を受けた。それに対し,拒絶査定不服審判請求と手続補正を行う。これについて,自然法則利用性がないとして補正却下,同様に発明該当性を否定して請求不成立の審決を行った。それを受けて,審決取消を求める訴えを提起した。
結果
請求棄却(原告敗訴)
理由
特許法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,発明は,一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成しうるという効果の確認という段階を経て完成されるものである。
そうすると,請求項に記載された特許を受けようとする発明が,特許法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは,前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその厚生から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。
そして,上記の通り「発明」が「自然法則を利用した」技術的思想の創作であることからすれば,単なる抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体は,自然界の現象や秩序について成立している科学的法則とはいえず,また,科学的法則を何ら利用するものではないから,「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当しないことは明らかである。<一般的な自然法則利用性の判断。そもそも本願発明が人為的取決めに過ぎないので否定,につながる>
また,現代社会においては,コンピュータやこれに関連する記録媒体等が広く普及しているが,仮に,これらの抽象的な概念や人為的取決めについて,単に一般的なコンピュータ等の機能を利用してデータを記録し,表示するなどの内容を付加するだけにすぎない場合も,「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないというべきである。<ソフトウェア関連発明プロパーの議論。この部分が補足①~④の基準に該当しないことにつながる>
<なお,これはそもそも課題の提示が曖昧すぎてそれ自体でダメ,と切ることもできる事案で,自然法則利用性でも別途切ることのできる事案であったと考えられる。前者については今回割愛した。>
補足
自然法則利用性,特にソフトウェア関連発明における判断である。一般にソフトウェアの根幹となるアルゴリズム自体は数学法則と人為的取決めであるから,ソフトウェアも「発明」にはあたらないという考え方が伝統的にあった。
対して,現在の特許庁における審査基準は改定され,ソフトウェア関連発明について「①機器等に対する制御もしくは制御に伴う処理を具体的に行うもの,②対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの,③ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているといえる場合,すなわち④ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって,使用目的に応じた特有の情報処理装置またはその動作方法が構築されている場合は発明該当性を認めている。
これは特許庁の審査基準に過ぎないが,これは会計処理システム事件(百選55)で山神先生が指摘されているように,裁判所も枠組みとして採用していると考えられる。同事件との対比で考えると,ソフトウェア関連発明の場合,結局ソフトウェアとハードウェアとの間のやり取りを具体化していること,すなわち情報処理装置の動作方法及びその順序等を具体的に示しているかどうかが判断基準となろう。
そうすると,54事件が一応ソフトウェア関連発明であるとしてその基準で考えるとしても,そのソフトウェアとハードウェアとの具体的動作方法の記載が抽象的に過ぎたのが敗因といえるのだろうか。この間を埋める判例数が少ないため,判然としないところが残る……。
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