平成26年新司刑法(刑事系第一問) 答案例
下記の答案は実際に時間をはかり(タイピングであることと精神的余裕を考慮して1時間30分) ,作成したものです。よって,不足等があることをご承知おきください。タイプミス等があっても,それはそのまま貼り付けてありますのでその点ご指摘はご勘弁ください。司法試験1年前の院生の答案だと思って参考にしたり,笑ったりすればいいと思うよ。
本問での反省点
甲の罪責について中止犯の可能性は検討すべきだったと思います。また,不真正不作為犯の論証が頭の中で定まっていなかったので冗長です。ギリギリセーフかもしれませんが,24時間,72時間などという時間で示されていたものを7月1日基準で7月3日の段階で……などと書き換えてしまっている(時間の関係で)ので,これがどう評価されるかが怖いです(マイナスにはならないまでも,印象点で1点2点失っているかも?)
また,丙の故意認定が雑な気がします。かといってこれ以上キレイに書く能力はまだないのですが。最後に,未成年者略取誘拐罪とかいうあまり使わない条文にはその場で対処したので,もっといい書き方はあると思います。とはいえ,現場ではこれくらいで充分と思っていますが。
答案本体
1.
甲の罪責
(1) 甲はAに授乳をせず放置し,その後Aは死亡したことから,刑法199条(以下,刑法は法令名省略)殺人罪にあたらないか。
ところで,Aは積極的にAを傷害等して殺害せしめたものではなく,ただ単に放置したに過ぎず,不作為による殺人罪の成立の余地しかないところ,不真正不作為犯たる不作為殺人を処罰できるかが問題となる。
殺人罪は作為によることを必ずしも要求する形では規定されていないところ,不作為によってもすることができるから,罪刑法定主義には反しない。一方で,不作為による結果の実現があった時,広く認めるとその処罰範囲が広すぎるため,一定の制約をする必要がある。
まず,不作為とは,ある要件に対して期待される行為をしないこと,と定義されるところ,その期待される行為をすれば結果が回避できた可能性があることが必要となる(①結果回避可能性)。また,結果回避可能性のある作為をすることができるということだけで作為義務を認めて不作為犯の成立を認めるとなお広範に失する。よって,保障人的地位を認めうるような場合にのみ,作為義務の発生を認めるべきである。保障人的地位は,結果惹起に対する排他的支配がある場合に認められるもので,それは先行行為による危険の創出や,法令契約,あるいは被害者との特別な関係によって作為義務を肯定しうるほどの排他的支配性を認めうる場合に認定できる(②保障人的地位による作為義務)。
更に,不作為犯は期待される行為を積極的に行うことが求められるところ,法は不可能を強いないという原則から,期待される行為を行うことが可能であるという③作為可能性も求められる。
(2) 以上のことから考えると,本件においては,甲はAと親子関係にある。とはいえ,単に親子関係にあるというだけでは未だ排他的支配を肯定するには不足であるが,Aは未だ母乳で生活している年齢であり,かつ,市販の粉ミルクに対するアレルギーがあることから,事実上甲に依存しなければ生存が不可能なものである。そのうえ,Aは甲と同居しており,自立して移動することは不可能であることで,保障人的地位を認め,②排他的支配性を肯定しうる。もっとも,甲方には丙が同居していたが,丙は母乳を与えることはできず,かつ,自らの実子でなく育児を放棄していることは甲にも明らかであるから,この事情をもってしても甲の排他的支配性を否定しえない。
(3) ①結果回避可能性について,甲が通常通り母乳を与えていた7月1日朝まではAの健康状態に何ら異常はなかったのであって,そのまま母乳を与えていればAの衰弱はなかったといえるから,肯定される。
また,③作為可能性について,母乳が出なくなったなどの事情によって授乳を中止したのではないから,母乳を与えるという作為は可能であるため,肯定される。
(4) 以上より,不作為による殺人罪の実行行為に相当するものは認められ,かつ,Aの死亡という結果も発生している。では,この両者の間に因果関係は存在するか。
甲の不作為とAの死亡との間で,Aの直接の死因がタクシー衝突による脳挫傷であるところ,この介在事情によってAが死亡したと評価できるから,因果関係が否定される事情となる。
また,Aは甲の不作為から逃れるため逃走した結果轢かれたというものではなく,合鍵を持っていないはずの乙に連れ出され,その結果タクシーと衝突したというものであるから,その異常性は高く,通常であれば生じるような介在事情とはいえない。
以上より,甲の不作為とAの死亡との間に因果関係は肯定しえず,甲はA死亡の結果までは責任を負わない。
(5) ところで,7月3日昼頃には既にAの症状は深刻なものとなっており,病院で適切な治療を受けない限り救命不可能というような状態に陥っており,この時点をもってA死亡の具体的危険が生じているといえるから,実行の着手を認めることはできる。その上,甲はA死亡の可能性を認識し,かつそれを望んで行っていることから,故意を認定できる。
よって,甲はAに対する,殺人未遂罪(199条,203条)が成立する。
2.
丙の罪責
(1) 丙はAを放置しているが,殺人未遂罪が成立しないか(殺人罪が成立しえないことについては,甲と同様である)。
丙に②作為義務があるといえれば,Aに対する殺人未遂罪を認める可能性がある。丙は,民法上の父親や親権者ではなく,単に甲やAと同居している他人であるものの,事実上父親としての役割を担っている。しかし,甲と異なり,既に育児を行っていない上,授乳等もできないのであるから,作為義務を負っているとまではいえない。
しかし,7月3日,甲の母親からの電話を受けた際にAの状態が発覚することを恐れ,来訪を拒むことでAに対する排他的支配状況を作出したといえる。よって,作為義務を肯定しうる。また,丙は授乳できなかったとしても,衰弱するAを病院に連れていくことで救命することは可能であったから,③作為可能性も①結果回避可能性もある。
(2) 更に,故意について,甲が授乳しないのは甲の責任であると考えているが,本件において丙の作為義務は甲に授乳をさせるよう働きかけること以上に,衰弱した,甲と丙の排他的支配のもとにあるAを病院に連れていき救命するというものであることから,これについて衰弱するAを前に保障人的地位から救命すべきという規範に接していることは明らかで,反対動機は形成される機会があったにも関わらず,あえて「Aが死んでしまえばよい」と考え,反する行動を取ったのであるから,故意責任の本質からも認めうる。
(3) 丙甲の共同正犯(60条)について,共同正犯には意思連絡による相互の結びつきで犯罪実現を容易にするところが不可欠の要素と考えられるところ,片面的共同正犯を認め得ず,甲は丙が気づいていないと思っており,丙は甲が知らないと思っているから,相互の結びつきは認められないため,共同正犯は成立しない。
3.
乙の罪責について
(1) 住居侵入罪(130条前段)
乙は,甲が返還を受けたと思っている合鍵を所持し,それをもって甲方に侵入したことが住居侵入罪にあたらないか。
名義上は乙が借主となっているところ,形式的には乙にも甲方に対する一定の支配権は及んでいるものであるが,実質的に甲丙Aの住居であり,かつ,その家賃も甲が支払っており,甲は乙の今後の来訪を拒む意思で合鍵をすべて返還することを求め,実際に返還を受けたと思っている。このことから,実質上の住居権者である甲の意思に反して侵入した乙には,甲方に対する住居侵入罪が成立する。
(2) 未成年者略取誘拐罪(324条)
丙は,未成年者たるAを連れ去っているから,未成年者を略取したといえる。しかし,丙も未だ親権者であるところ,親権者に対して同罪が成立するかが問題となる。
未成年者略取誘拐罪は,未成年者の生活の平穏を保護するものであるところ,一応甲のもとで平穏に生活しているAを同意なく連れ去ることは未成年者略取誘拐罪を構成する。
以上より,丙には手段としての住居侵入罪と,目的としての未成年者略取誘拐罪が成立し,牽連犯(54条1項前段)の関係となる。
以上
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