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ニッポン放送株事件

東京高決平成 17 年 3 月 23 日(商判 8 版Ⅰ― 64 ) 事案の概要:経営権争いが起きている状況で、敵対的買収対抗策として新株予約権を第三者割当したところ、不公正発行だと争われた事件。ライブドアが元気にしてたころの話ですね。本件において敵対的買収を仕掛けているのはライブドアで、防衛しているのはニッポン放送(及びフジテレビ)です。村上ファンドも絡んでいて、法律の勉強なんて全くしていない頃ですが、印象深いですね。 結論: ( 抗告 ) 棄却。ニッポン放送が負けました。 規範:原則として、主要目的ルールが妥当する。すなわち、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面に置いて、取締役会が支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、特定の株主や現経営者の支配権を確保することを主要目的として新株を発行することは、取締役会の一般的権限たる経営判断事項として無制限には認められない。これは、株主総会の専決事項たる (254 条 1 項、 257 条 1 項 ) 取締役の選解任を経た取締役会によって、株主の構成を変更することは、商法の機関権限分配の法意に反するものであるからである。<ここまで主要目的ルールの原則論> もっとも、経営支配権の維持確保を目的とした新株予約権の発行が許されないのは、取締役は会社の所有者たる株主の信任を基礎とするところ、株主全体の利益の保護という観点から、新株予約権の発行を正当化する「特段の事情」がある場合は、例外として許容される。この場合の特段の事情とは、①グリーンメイラー、②焦土化作戦(③会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、④会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合<全部書いたら長いし覚えられないので、 2 個くらい書いておく>)など、「濫用目的をもって株式を取得」するような相手方の場合、その相手方は保護に値しない上、当該敵対的買収者の放置は他の株主の利益を損なう。 よって、対抗手段としての必要性や相当性...

ブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)

注:主要目的ルールについて述べた忠実屋・いなげや事件、ニッポン放送株事件、及びブルドックソースを前提とするピコイ事件等々について、整合性の争いというか、主要目的ルール死亡説が囁かれていますが、未だ主要目的ルールは生きており、その例外としてブルドックソースのいう「株主の同意」やニッポン放送のいう「濫用目的買収者対抗」があると思っています。例外の範囲が広がっていっているようですが、あくまで答案上は主要目的ルールで原則判断をして、その後例外処理をすべきかと。 また、ブルドックソース事件は主要目的ルールを重要論点とせず、明らかに目的が買収防衛策であるにも関わらずOKとしていて、株主平等の原則に対する回答をしたものであるという視点で以下整理していますが、この点においては主要目的ルール死亡説に靡いてしまうところです。 答案としてブルドックソースがダイレクトに出た場合を想定すると、やはり主要目的ルールに触れつつ、経営判断の原則から資金調達目的を苦しくても認定した上で株主平等の原則の話に入るべきなのかと思ったり、思わなかったり。 事案の概要:買収防衛策として、株主総会の圧倒的多数により「差別的行使条件を付した新株予約権無償割当」を行い、相手方の新株予約権を行使させず金員を交付し全部取得することで、持分比率の大幅な低下を目論んだ事件 結論:合法 規範:原則として 109 株主平等の原則が妥当する。株主平等の原則は個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務づけるものであるが、個々の株主の利益というものはそもそも会社の存立・発展なくしては考えられないものである。そうであれば、会社の企業価値が毀損されることにより、株主共同の利益が害されることになるような場合には、その防止の為特定の株主を差別的に取り扱うことが許される場合もある。 この判断に際しては、会社の利益の帰属主体である ①株主自身が最終的な判断(判断をしたという点を①とする) をすべきものであるところ、 ②株主総会の手続きの適正 、 ③判断の前提となった事実の存在といった判断の正当性を失わせるような部分の重大な瑕疵 が無い限り、尊重されるべきである。 本件:本件総会では ①議決権総数の 83.4% の賛成を得て可決されており、相手方以外のほとんどの...

ゴツトン師事件(教唆犯)

ゴツトン師事件 (表記ゆれでゴト師事件、ゴットン師事件とも。今回は判例の表記に従った) 所収 (最判S25/07/11_刑集4巻7号1261頁)(百Ⅰ89)(判総306) 何を言ったか 教唆において必要とされる因果性について判断を示した。 事案の要約 まず、Xの教唆(①)によってX・Y・Z他で共謀して強盗に入ろうとしたが、母屋に入れなかったので断念した。その後、諦めようとしていたところにZらが「我々はゴツトン師であるからただでは帰れない」と言い出し、隣のB商会(ラジオ屋)へ押し入った。 問題点 ①の教唆行為とB商会へ押し入った行為との間の因果関係が存在するか問題となった。 解決 ①教唆による強盗失敗後、断念した段階で一旦放棄された。その後共犯者3名が『B商会に押し入ろうと主張したことに動かされて決意を新たにして遂にこれを敢行したものであるとの事実が窺われないでもない』ので、①とB商会での行為との間に因果関係があるといえない。 メモ 教唆とは「人に犯罪行為遂行の意思を生じさせて、それに基づき犯罪を実行させること」であった。そうであれば、実行行為に対してそれを「決意させた」といえることこそが実行行為との関係での因果関係として求められる。 本件では最初の家に入っていれば問題なく①によって「犯罪行為遂行の意思を生じさせた」のであろうが、一旦断念したところで①によって生じた意思は終わった。ここで因果関係が断絶したので、Xの教唆と実行行為との因果関係はないとしたものである。

凡例的なページ

 本ブログにおける凡例のようなものをまとめました。 一般的に法学の世界で使われる略語も含めて書いており、独自のものかどうかは一応区別したつもりですので、初学者向けのテクニカルターム解説にもなったらいいなと思っております。 なお、これらは思いつき次第追加していきます。(最終アップデート:令和2年12月22日) 一般的な用語 ・J 裁判官。Judgeから。 ・P 検察官。Prosecutorから。検察庁を指してP庁という言い方もする。 ・B 弁護士。Bengoshiから。どうしてこうなった。なんでLにしなかったのかは誰も知らない。 ・ボウチン 冒頭陳述。知ったばっかりのころは無駄に言いたくなりますね。 ・刑訴、民訴、両訴 刑事訴訟法、民事訴訟法。その2つをあわせて両訴と呼ぶ。手続法仲間。 ・刑集、民集 最高裁判所刑事/民事判例集(大審院刑事判例集を含む場合あり) ・判総、判各 判例刑法総論/各論。有斐閣から刊行されている判例集。2020/12/22現在第7版が最新版であるので、これに準拠した番号を示しています。さしあたり改版が来ても対応予定なし。 ・最判、○高判、○地判、大判 最高裁判所判決、○○高等裁判所判決、○○地方裁判所判決、大審院判決。「判」を「決」にして~~裁判所決定とする使い方もある。大判は一瞬大阪高裁と見間違えるときがあるが、最高裁と同格なので注意。 高等裁判所については札幌仙台東京名古屋大阪広島高松福岡で頭文字すべて被りがないため一文字で示しますが、地裁は被りがあるので「大分地判」「大津地判」などとする場合も。 ・判例、裁判例 このブログのタイトルにもなっている「判例」は厳密に言うと最高裁判所の判決/決定のみを指します。そして、それ以外の下級審は「裁判例」と呼んで区別します。これを間違えると法科大学院では傷害罪の同意とみなされます。 独自の略語 ・φ、C、K、Cs、Ks、Co(なるべく使わないようにしていますが) 憲法、民法、刑法、民訴、刑訴、会社法。ノートを取る時には使っていますが、まとめる際には排除しているつもり。たまによく頻繁に残っている。それぞれの由来は追々。 ・『』 二重鉤括弧。これについてはこのブログも多用していきますが、判例(裁判例)の引用を示します。この裏返しとして、「」内の「」は『』であるという一般的な書き方の法則を無視していま...