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宮入バルブ事件<体裁整理前>

 東京地決平成16年6月1日(判例集Ⅰ-56) 「特に有利な価格」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額を言うところ、時価がある場合、既存株主の利益保護の観点からその時価と等しいことが要請されるが、資本調達の目的を達するためには、発行価額を時価より引き下げることが必要となる。 よって、公正な発行価額は①『発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合』して決すべきである。 ところで、 ②日本証券業協会自主ルール <第三者割当増資等の取扱いに関する指針>「発行価格は、当該増資にかかる取締役会決議の直前日の価格(直前日に売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日)に0.9を乗じた額以上の価格であること。ただし、直近日または直前日までの価格または売買の状況などを勘案し、当該決議の日から発行価格を決定するまでに適当な期間(最長6ヶ月)をさかのぼった日から当該決議の日までの間の平均の価格に0.9を乗じた額以上の価格とする事ができる。」 ……は、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益と調和の観点から定められた、一応合理的な基準であるので、これと著しく乖離した金額で、かつこの乖離の理由が客観的な資料に基づいて考慮要素を斟酌した結果であると認められ無いときは、合理的な価格といえない<=有利発行、不公正発行にあたる> ②が一応合理的であるから、これに従っていれば原則問題なし、但し①によって考慮した結果合理的であると言えれば、②から離れてもよいという判断。あくまで原則は①、そこから導かれる基準として②があるという関係であることは忘れない。 本裁判例では公正価格との差額を会社にとって生じた損害と認定して、株主代表訴訟による損害賠償請求を認めた。有利発行の際の212-1-1責任(これは株総特別決議によって責任を回避、また、通謀、199-3虚偽説明、831-1-3参照)、取締役423責任(847株主代表訴訟)の対象となるかについて、認めた。 →特に有利な発行価額による新株発行が違法になされた場合に既存株主に生じる損害は、その発行価額と本来会社に払い込まれるべき適正な発行価額との差額 であるとし...

ニレコ事件(ポイズン・ピルの適法性)

  東京高決平成 17 年 6 月 15 日(商判Ⅰ― 66 事件) 用語: ポイズン・ピル……事前に既存株主へ新株予約権を無償割当しておき、発行済議決権付き株式総数の一定以上 ( 本件では 20%) を保有する者が現れたとき、取締役会が新株予約権の消却が必要と認めない限り、新株予約権が行使され、敵対的買収者の保有割合を希釈し、現経営、及び現支配株主の支配権を維持することで、経営権簒奪から防衛することを目的として設計される企業防衛策 規範: 濫用的な買収から企業を防衛するために新株予約権を行使させ、特定株主の持株比率を低下させることは、その時点での経営者や支配権を維持することになるから、ポイズン・ピルの目的の重要なものとして支配権の維持があることは否定できない。 ところで、ポイズン・ピルが発動し、実際に新株予約権が行使されたとき、既存株主は新株予約権の行使価格がほぼ無償であることから、会社資産の増加がないのに発行済株式総数が一気に 3 倍<本件では 1 株あたり 2 株の割当がされていたので、 3 倍になる>になるのであるから、株式の時価が 1/3 に下落する可能性がある。とはいえ、株主としても価値は 1/3 となれども、 3 倍の量の株式を得るのであるから、実質的に損害はないといえる。しかし、そのような要素を抱えた株式として存在する以上、投資対象としての価値が薄れ、長期に渡る株価下落、低迷を招く可能性がある。これは、本件新株予約権の発行がなければ生じ得なかった不測の損害といえる。 備考: 濫用的買収から保護するために新株予約権を活用する可能性を認めたといえるニッポン放送事件同様、こちらもその可能性は認めている。一方で、それを見越して事前に仕込むポイズン・ピルは否定したものである。

ピコイ事件

  東京高決平成 20 年 5 月 12 日判タ 1282 号 273 頁 事案の概要: 取締役会が違法な新株予約権無償割当を行おうとして、取締役会において決定した日を割当日として 247 条類推の差止請求を不可能にした。その状況で、新株予約権に基づいてなされる新株発行を差し止めることができるかという事案。新株予約権発行無効の判断をしないでいいのかという問題。 規範: 新株予約権発行はその行使による新株発行が当然予定される手続きであるから、新株予約権の発行について法令定款違反、不公正発行という瑕疵がある場合は、それに続く新株発行の手続きも当然その瑕疵を引き継いだものになる。 したがって、新株予約権発行手続に 247 条の差止事由がある場合、引き続いて行われる新株発行手続にも当然 210 条の差止事由があるものといえる。 本件: 被保全権利について、ブルドックソース事件とほぼ同じ。 株主平等の原則 (109 条 ) が原則であるが、会社の存立は株主共同の利益。それを害するような買収の場合に当該敵対的買収者を差別的に取り扱ったとしても、衡平の理念と相当性に照らして欠くところがなければ、直ちに株主平等の原則の趣旨に反するとはいえない。

ニッポン放送株事件

東京高決平成 17 年 3 月 23 日(商判 8 版Ⅰ― 64 ) 事案の概要:経営権争いが起きている状況で、敵対的買収対抗策として新株予約権を第三者割当したところ、不公正発行だと争われた事件。ライブドアが元気にしてたころの話ですね。本件において敵対的買収を仕掛けているのはライブドアで、防衛しているのはニッポン放送(及びフジテレビ)です。村上ファンドも絡んでいて、法律の勉強なんて全くしていない頃ですが、印象深いですね。 結論: ( 抗告 ) 棄却。ニッポン放送が負けました。 規範:原則として、主要目的ルールが妥当する。すなわち、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面に置いて、取締役会が支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、特定の株主や現経営者の支配権を確保することを主要目的として新株を発行することは、取締役会の一般的権限たる経営判断事項として無制限には認められない。これは、株主総会の専決事項たる (254 条 1 項、 257 条 1 項 ) 取締役の選解任を経た取締役会によって、株主の構成を変更することは、商法の機関権限分配の法意に反するものであるからである。<ここまで主要目的ルールの原則論> もっとも、経営支配権の維持確保を目的とした新株予約権の発行が許されないのは、取締役は会社の所有者たる株主の信任を基礎とするところ、株主全体の利益の保護という観点から、新株予約権の発行を正当化する「特段の事情」がある場合は、例外として許容される。この場合の特段の事情とは、①グリーンメイラー、②焦土化作戦(③会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、④会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合<全部書いたら長いし覚えられないので、 2 個くらい書いておく>)など、「濫用目的をもって株式を取得」するような相手方の場合、その相手方は保護に値しない上、当該敵対的買収者の放置は他の株主の利益を損なう。 よって、対抗手段としての必要性や相当性...

ブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)

注:主要目的ルールについて述べた忠実屋・いなげや事件、ニッポン放送株事件、及びブルドックソースを前提とするピコイ事件等々について、整合性の争いというか、主要目的ルール死亡説が囁かれていますが、未だ主要目的ルールは生きており、その例外としてブルドックソースのいう「株主の同意」やニッポン放送のいう「濫用目的買収者対抗」があると思っています。例外の範囲が広がっていっているようですが、あくまで答案上は主要目的ルールで原則判断をして、その後例外処理をすべきかと。 また、ブルドックソース事件は主要目的ルールを重要論点とせず、明らかに目的が買収防衛策であるにも関わらずOKとしていて、株主平等の原則に対する回答をしたものであるという視点で以下整理していますが、この点においては主要目的ルール死亡説に靡いてしまうところです。 答案としてブルドックソースがダイレクトに出た場合を想定すると、やはり主要目的ルールに触れつつ、経営判断の原則から資金調達目的を苦しくても認定した上で株主平等の原則の話に入るべきなのかと思ったり、思わなかったり。 事案の概要:買収防衛策として、株主総会の圧倒的多数により「差別的行使条件を付した新株予約権無償割当」を行い、相手方の新株予約権を行使させず金員を交付し全部取得することで、持分比率の大幅な低下を目論んだ事件 結論:合法 規範:原則として 109 株主平等の原則が妥当する。株主平等の原則は個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務づけるものであるが、個々の株主の利益というものはそもそも会社の存立・発展なくしては考えられないものである。そうであれば、会社の企業価値が毀損されることにより、株主共同の利益が害されることになるような場合には、その防止の為特定の株主を差別的に取り扱うことが許される場合もある。 この判断に際しては、会社の利益の帰属主体である ①株主自身が最終的な判断(判断をしたという点を①とする) をすべきものであるところ、 ②株主総会の手続きの適正 、 ③判断の前提となった事実の存在といった判断の正当性を失わせるような部分の重大な瑕疵 が無い限り、尊重されるべきである。 本件:本件総会では ①議決権総数の 83.4% の賛成を得て可決されており、相手方以外のほとんどの...